SSブログ

ラインの黄金・・・Staatsoper Unter den Linden・・2019/9/7 [オペラ]

 6月に6泊9公演鑑賞という遠征をしたのですが、それを放置して9月の遠征を先にあげます。
 カシアス演出のリングは前半2作をスカラで、後半2作をシラーで鑑賞したので最初は観る予定ではありませんでした。ところが今シーズンのプログラムが全部発表されるとオランダ人以外他にワーグナーはなし。それではやはり行かなくてはいけないと思い改め、売り切れだったチケットも1か月前くらいに出てきたのを幸いと行ってきました。ただしそれほど長く日本を離れることはできないのでジークフリートまでしか見れなかったのは残念至極。
MUSIKALISCHE LEITUNG Daniel Barenboim
INSZENIERUNG Guy Cassiers

WOTAN Michael Volle
DONNER Roman Trekel
FROH Simon O'Neill
LOGE Stephan Rügamer
FRICKA Ekaterina Gubanova
FREIA Anna Samuil
ERDA Anna Larsson
ALBERICH Jochen Schmeckenbecher
MIME Wolfgang Ablinger-Sperrhacke
FASOLT Matti Salminen
FAFNER Falk Struckmann
WOGLINDE Evelin Novak
WELLGUNDE Natalia Skrycka
FLOSSHILDE Anna Lapkovskaja

 スカラで聴いたときよりもぐっと劇的信憑性が高く濃密。それを可能にしたのは密度が高くキレのある音を持つSKBの演奏と、生粋のワーグナー歌い達の阿吽の呼吸でした。
 バレンボイムが導く演奏はテンポの変化、抑揚が寄せては返す波のように淀みなく観客を物語にいざない、深い音は時に効果音のように緊張感を高め、場面ごとの楽器のバランスも絶妙で観客の心をつかんで離しませんでした。[猫]の拘りである巨人族の登場場面は今まで聴いたことがないほど重量感のある演奏で脳内に巨大な巨人が出現。クリア基準であるハグリッドどころか進撃の巨人かと笑ってしまいそうでした。
 その巨人族はサルミネンとシュトルックマン。この二人がそれぞれの性格を何気なく滲ませていたのが劇的信憑性を高めた要因の一つ。オリジナルではサルミネンではなく他の人だったはずなのですが、いつのまにかサルミネンに変わっていて今回も助っ人としての活躍。今回は今まで聴いたなかでは最も力のある声で、なおかつどこか哀愁のある暖かさを内包した歌い方がフライアを失う悲しみに通じて好演。一方のシュトルックマンはサルミネンと並ぶと小柄に見えて、兄貴の影に隠れて虚勢を張っているような印象だったのが、財宝を受け取る場面で強欲な本性を発揮。歌い方もさることながら、隙間なく財宝が積まれているか這いつくばって見るという演技が上手すぎ。足元は水たまりもあるデコボコなので決して自由に動き回れる環境ではなく、スカラの初演時にはそのような演技は要求されてなかったのに、思わずそう動いてしまったかのようだったのはさすがベテランのワーグナー歌い。
 波のように寄せては引く演奏が緊張の頂点に導いたのはアルベリヒの呪いの歌。バレンボイムはいつものように歌手が役に没頭して歌えるよう配慮をかかさず、シュメッケンベッヒャーは間を置いてのmeinem Fluch fliehest du nicht! 見事な歌いっぷりで物語のキーパーソンの役割を果たしてました。
 リューガマーの最大の魅力はさりげなさ。つまり頑張って歌っているというところは一切なく、常に自然体でその役で存在していると思わせてしまうところ。知的な声の持ち主ながらトボケているかのような印象を与えたかと思えば、厚いオケを超えて力強く声を響かせることもできる。歌も演技も柔軟な表現力の持ち主と言えるかもしれません。時々ダンサーと同調して何気なく動くのがダンサー達はローゲの意のままに動く精霊のように見えてきて、スカラでは気が付かなかった発見でした。幕切れで降りてくる幕を一旦止め、何を思ったのか?神々の運命を予感しているのか?このニュアンスある演出とティンパニの音が浮かび上がる演奏がなんとも言えない余韻を残しました。
 グバノヴァは怪我でバイロイトをキャンセルしたと聞いていたので心配してましたが、出演してくれて一安心。チーム・バレンボイムの一員として頼もしい存在なのは相変わらず。
 最後になってしまいましたが、なんといってもヴォータンのフォレの存在は圧倒的。品格がありながら指輪に未練をもってしまう微妙な心情。言うことなし。以前はパーペが歌っていましたが、元々さすらい人は音域が合わないということで歌わなかったので、フォレがチーム・バレンボイムに加わってくれたのは嬉しいことです。ここ数年この劇場で歌うことの多いフォレとあって、この後のチェルニアコフ演出のリングでもご出演を期待してしまいます。とはいえ、パーペのヴォータンをもう一度聴きたい気もするのですが、もしかするともう歌わないでしょうか?

 カーテンコールで最も称賛を受けたのがフォレ。次がサルミネン、シュメッケンベッヒャー、リューガマーの3人だったのは順当に思えました。もちろんバレンボイム&SKBにもいつものように最大級の称賛でした。
 
 演出は2010年のスカラ初演ではダンサーが鬱陶しく感じる場面もあったのですが、その後ダンスを交えた演出も増えたせいか、今回はそう感じることはありませんでした。いずれにせよスカラもベルリンも予算が充分になかった時代で、なおかつ保守的なイタリアの聴衆を考えれば、イメージを壊すようなものでないだけで充分。それに充実した音楽にはどんな演出でも問題なしと思えたのでした。

 

nice!(0)  コメント(2)